文化財解説文 | 2羽の鶴が外向きに旋回し、うち1羽が松の折れ枝をついばむ文様を鋳出(いだ)した大型の鏡である。
周縁は断面台形を呈し、鈕座(ちゅうざ)をもたない素鈕(そちゅう)で、一部に紐の痕跡を残す。やや太めの界圏(かいけん)を巡らし、内区(うちく)と外区(そとく)にわずかな高低差を設けている。 文様は滑らかなへら押しで鶴の体躯や松葉を表す。一方の鶴の足元には蝶を1匹描く。外区には2羽1組の右向きの子鶴と飛雲を交互に配置する。 地金は錫(すず)をやや多く含み、白銅に近い色味を呈する。鏡背(きょうはい)全面に漆とみられる黒色の着色を認めるが、当初の施工かは不明である。鏡面全面に鍍錫(としゃく)を施す。 鏡背文様は平安時代末から鎌倉時代初期、12世紀後半の特徴を示す。類似した図様の作例は少なからず存在するが、ほとんどは面径11㎝前後の小型鏡になり、多くが経塚出土鏡(きょうづかしゅつどきょう)である。対して本鏡は、出土品らしい古色・錆等は認められず、収納箱蓋(ふた)裏の先代宮司による書付けに、中手樺八幡宮(なかんてかばはちまんぐう)宝殿前立鏡(ほうでんまえたてきょう)、後に神輿渡御(しんよとぎょ)の御霊代(みたましろ)として用いた伝来を記す通り、永らく当社に伝来した鏡とみていい。松喰鶴文の12世紀に遡る大型の神社伝来鏡として、全国的にも稀な作例である。 |
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