
文化財解説文 | 江戸時代後期に製作された紙製地球儀(以下、「本資料」という。)である。竹木などを芯として成形し紙を貼る張子のようにみえるが、内部に芯は確認されず、特殊な製法で作られている。全体に緯線・経線が墨書され、「赤道線」「夏至界」(北回帰線)などを赤線で示す。地図は大陸、島嶼(とうしょ)、地域ごとに色分けされ、漢字とカタカナで地名を墨書する。また、地名付近に地名にかかる説明文が付されているところもある。附属する『地球讃並序』が寛政10年の成立であることから、「本資料」も寛政10年、ないしそれ以前に製作されたと推定される。
「本資料」製作には、日本において18世紀以降に本格的な普及をみる地球球体説および地動説の知見が反映されている。また、地名の記載などから、寛政4年司馬江漢(しばこうかん)作の『地球全図(ちきゅうぜんず)』、寛政8年橋本宗吉(はしもとそうきち)作の『喎蘭新訳地球全図(おらんだしんやくちきゅうぜんず)』から多大な影響を受けており、18世紀末の知見をもとに製作されたと推認される。 現存する紙製地球儀のうち、地球球体説および地動説の知見を反映したものが、19世紀中ごろ(江戸時代末期)以降の製作(原図も19世紀)であり、「本資料」の先駆性が特筆される。なおかつ、その特殊な製作技術とともに、日本における地球儀製作の歴史、科学史研究の重要な研究資料となる。県指定文化財とするにふさわしい。 |
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